式嫌い

俺は凡そ「式」と名の付くものが嫌いである。結婚式、入学式、卒業式、成人式、葬式。「チャート式」や「オギノ式」なんてのにさえ、響きに嫌悪感がある。

特に、結婚式って奴が苦手だ。結婚なんてものはそこから先が大事なわけであって、「結婚式」に憧れてそこに幸せのピークを持って来たらあとはもう不幸になる一方じゃないか。大体、「招待する」なんていうけど、「私たちを祝え」って呼びつけてしかもご祝儀せしめるなんて、カツアゲみたいなもんじゃないか。

 

俺の初めての女は、大学1年生のときの同じサークル、同じバンドでクラリネットを吹いている子だった。まあなんていうことはなく「普通」に付き合っていたんだが、唯一の問題は、彼女が俺のことをそんなに好きではないということだった。

ジャズ喫茶で働いていた彼女は一度、客の男と仲良くなり、俺から離れたのだが、そいつがろくでもないストーカー気質の奴だったようで、俺に相談をしてきた。まあ、なんとか撃退してよりを戻したんだが、今度は同じバンドのトロンボーンの男とくっついてしまった。奴らが「くっついた」旅行の宿を取ってやったのは、俺だった。

なんせ同じバンドであり、俺はサークルのマネージャーをしていたので、とにかくそいつらと顔を合わせないわけにはいかない。大学を卒業した後にも趣味のバンドを一緒にやることになり、いまだに年賀状が来る。俺からは出さないが。

何かの集まりがあったとき、俺はつい、「結婚式ってカツアゲみたいなもんだよな」と奴らの前で言った。そうしたら彼女のほうが腹を立て、「あなたは絶対に私たちの結婚式に呼ばない」と言う。俺は慌てて取り繕い、謝って、「お願いだから呼んでほしい」と懇願した。結果、俺も結婚式に呼ばれ、みんなで仲良く演奏したのだった。

 

俺はあの女が好きだったんだろうか。だから、式が、結婚式が嫌いになったんだろうか?

いや、でも、俺は大学の卒業式にも行ってない。あの女と一緒に出るはずだった、卒業式に。